ミニマリストの小宇宙

ミニマリストの小宇宙

minimalist's microcosm

ウチに来ても何もないよ。

 

またか。

 

どんなに恐ろしいことも、2度目となると多少は冷静でいられるようだ。

 

前にも一度同じことがあった。

換気扇の中に誤って入ってしまった鳥が、出られなくなってもがいている。

そんなにウチの換気扇は魅力的かね?

 

前のときは、どんな生き物がどこにいるのかも分からなかったから、わたしはひたすら恐ろしいことばかりを想像し、姿の見えない相手に怯えていた。

羽ばたきが起こす振動から、鳩やカラス程度の質量はあると思ったし、凶暴な猛禽類かもしれないとさえ疑ったのだ。

蓋を開けてみれば、怯えていた相手は小さなスズメであった。

換気扇の中の鳥

 

 

異変に気が付いたのは夜。音から察するに、以前と同じような小さな鳥であろう。だいたい、換気扇に入ってしまうくらいなのだから、そんなに大きな鳥であるはずがないのだ。

 

怖いことは怖いが、もう寝たい時間なので寝る。前回ではこうは行かなかっただろう。太くなったな、と妙な感慨さえ感じる。

 

「朝までに出ていってくれますように」と願ってはみたが、翌朝わたしを起こしたのは例の羽音であった。

 

今回の鳥は、以前の鳥と比べると冷静だった。

前の雀は、おそらくパニック状態にあったのだと思う。だからこそ、小さな体からは想像もつなかいような激しい暴れ方をし、出られたときには勢い余って壁にぶつかり気絶したのだ。

 

今回の鳥は、ときおり羽ばたいてはみるものの、やみくもにもがいているわけではないらしい。換気扇から覗く羽根の方向が一定ではないのだ。いろいろな角度や体勢を試しているのだろうか。もしかしたらコイツは自力で出ていけるかもしれない。

 

しばらく部屋を空けて戻ると、鳥はもういなかった。

 

パニックになって暴れていた鳥と、自力で脱出した鳥。

鳥にもいろいろいるらしい。

 

自力で出ていった鳥は、夜のうちは比較的おとなしくしていて、朝になってから活発に動き出した。だいたい7~8時間は閉じ込められていたから、なかなかタフである。夜は単に眠っていたのかもしれないが、計画的に朝まで体力を温存したのだとしたら出来る奴だな、などと余計なことを考える。かつてどこかで聞いた話だが、戦場においては、どんな状況でも睡眠をとることができるというのは生き残るために必要なスキルだそうである。

 

危機的状況においても冷静さを失わず、諦めず、機を逃さず、もがいて、あがいて、脱出した鳥。ふと、わたしに同じことができるだろうか、という疑問が湧く。どんな方法を使っても脱出しようと、あがくことができるだろうか。わたしはおそらくパニックになるほうだろう。あるいは、換気扇に近づいたことをひたすら後悔したり、もうここで死ぬのだと諦めたり。鳥よりも志が低いなど、人類として情けない。

 

まだ早い朝の光の中、わたしの見たものが夢ではないことを証明するように、小さな羽根の断片がゆっくりと舞い降りてきた。

前回の一件以来、わたしは鳥の羽根が苦手になっている。生々しすぎるのだ。

 

もし鳥たちに通じるものならば、「ウチに来ても何もないよ」ということをぜひとも伝えたいものである。