私と同世代の女性は、「サン宝石」をご存知の方も多いだろう。
初めて「通信販売で買物をする」という経験をしたのは小学生のときだ。
まだネットショッピングなどというものはなかった。
「サン宝石」は少女漫画やファッション雑誌によく広告が載っていて、雑貨や化粧品やアクセサリーといった細々したものを安価で扱っていた。
クラスの女子の間ではこれがちょっとした流行であった。
友達数人でいっしょに注文する。たしか、いくら以上でないと注文できないとか、そういうシステムだったと思う。
今から考えると牧歌的としか言いようがないのだが、注文は「専用のはがきに商品番号を記入して郵送する」という方法で行い、届くのはなんと1ヶ月以上も先であった。
商品には郵便振替の用紙が同封されており、これで支払いをする。
1ヶ月である。信じられない。
もちろん現在のような追跡システムもなく、メールすらないのでいつ届くかもわからない。「発送をもってお知らせします」なのだ。
そしてなんと、「品切れ」も発送をもってお知らせされる。
(つまり、こういうことがあるので「後払い」でなければいけない。)
何の連絡もなく1ヶ月以上待ったあげく、品切れの際はご容赦ください、というシステム。
20年前の、インターネットショッピング前夜の通信販売である。
小学生にとっての1ヶ月は、現在とは比較にならないほど長い。
届く頃にはすっかり忘れていたり、もうそんなに欲しくなくなっていたりすることも多かった。
しかし当時はこれでけっこう楽しかったように思う。
とはいえ、「早いほうがいい」のはあの頃も今も同じ望みなのだ。
私が電子書籍を好む理由もそれだ。電子書籍は「注文と同時に」手に入る。
あれから約20年、今では、海外から取り寄せたりするような特殊なものを除けば、数日で届くのが当たり前になった。
翌日がふつう。2日後だと、ちょっと遅く感じたりもする。
だけど物流は「モノを運ぶ」から、「光」には勝てない。どんなインフラで新聞配達をしても、電子版の方が早い。
インターネットの速度に物流が追いつかないのは当然だ。
ビッグデータもドローンも、「モノを瞬時に動かす」ことはできない。 だから、追いつくために「注文より先に」予測して動く。
Amazonだと、購入履歴からのおすすめ商品が表示されたりご丁寧にメールで知らせてくれたりするわけだが、これが単なる表示ではなく、「近くの配送センターに私が買うであろうと予測した商品を手配して注文を待ち構えている」のだとしたらずいぶん恐ろしい。
もうそうなってるのかな?
グーグルやAmazonに予測される行動。予測通りの人生。自由意志は何処へ。あるいは、最初からそんなものはなかったのか。
あの頃の速度に戻してくれとは思わない。
しかし便利を求めるあまり、自由意志まで放棄した消費者になるつもりもない。
物流がめざましく発達したこの20年間だが、実は、物流の「量」は20年間連続して減少し続けているらしい。
(20年前の3分の2まで減少している。公共事業の資材が減ったことが大きいのだとか)
我々はこんなに物流を利用しているのに、実感は案外あてにならないものだ。